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中嶋朋子 インタビュー

「木でできたもの、好きですよ。長く使ってるものって気づけば木、みたいな(笑)」

高尾山の自然林のなかに建てられたツリーハウスを見上げて、中嶋朋子さんは声を上げた。山の斜面からツリーハウスに渡された吊り橋が揺れても、中嶋さんは怯むことなく歩いていく。ツリーハウスの窓から外を見渡し、ツリーハウスやそれを支えている杉の木を触って、その感触を確かめてみる。中嶋さんはあっさりとツリーハウスのなかでくつろいでしまった。

──こういうところに来ると、気持ちのなかのモードが変わる感覚はありますか? ああ、ありますね。私の場合は多分、こういうところのスイッチのストックがあるから、それが確かに切り替わってる感じはあります。

──東京にいるときが普通モードっていう感じですか? “普通”はどっちにもあるんです。こういうところに来たから、“ああ、リラックスできるぅ”とか、もちろんそういう感じもありますけど、もっとニュートラルなものが私のなかにあるんですよ。“日常”を経験したことがあるから。まあ、でもそれは、実際に暮らしてらっしゃる方の“日常”ではないんですけれども。それにしてもこういう場所で日々過ごしたというスイッチがあるから、たとえばリゾートに来たとか、そういうスイッチとは違いますよね。こういうところで過ごしていたときのスイッチが入るっていう。東京は東京でまた、東京の暮らしのスイッチが入るんです。

──「こういうところで過ごしていたときのスイッチ」があることは、東京で暮らしているときに何か影響をおよぼしたりすることはありますか? 匂いとかでふと思い出す感じに近いのかなあ。たとえば季節を匂いで感じるとか、雨が降るなとか(笑)。そういうことを都会でも感じられるんだなっていうことを、北海道に長く行ってたおかげで逆にわかったんです。大きな自然のなかでスイッチを作ってもらったから、小さな自然のなかでもスイッチは稼動するんですよ。

──木に関しても、最初に大きな森で見知ったから東京の1本だけ立ってるような木でも十分に何か感じるということはあるんですか? あります、あります! 今いるようなところは厳しいことをいっぱい教えてくれますし、豊かなんだなあっていうことがパッと見でわかるじゃないですか。それに、足腰がなまってるとなかなか奥へ進めなかったりして、いろんなことを、ある種手厳しく、でも御褒美も大きく教えてくれるんですよ。でも、ささやかな木立の前では哲学的っていうのでもないんですが、すごく考えるんです。北海道だと、癒されるか、デッカイなあって打ちのめされるかしてボーッとしちゃうんですけど、東京の小さな木々とか雑草とかを見ると逆に考えさせられるんです。すごい!って。このすごさはなんだろう?って。

──暮らしのなかに木で作られたものを取り込んだりすることはありますか? 好きですよ。そんなに大量にはないけど、長く使ってるものって気づけば木、みたいな(笑)。すごい大好きな木べらがあるんです(笑)。お料理に必ず使うもので、テフロンとかにはもっと有効なゴムべらみたいなものも他にいっぱい持ってるんだけど、どうしてもその木べらがいちばん使いやすいし、おいしくなるような気がするんです。こげちゃってて、形もボロボロなんだけど。で、新しいのをみつけたんですよ。ようやく自分の好きな形のものを。でも、やっぱりその“木べらくん”2号は1号にはかなわなくて、まだ新品なんです。つい、手は古いほうに伸びちゃう。

──2号くんが1号くんにかなわないポイントは? やっぱり、味ですよね。手に馴染んじゃってますからね。こげちゃって、へらのところが斜めに削ぎ落とされちゃって、それがちょうどいい感じなんですよ。

──木を素材にしたものって、一緒に時間を過ごしてきた物語みたいなものがそこにいい感じで表れてきますよね。 お馴染みさんになるっていうかねえ(笑)

──木べらに感じている、そういう愛着はたとえば中嶋さんの息子さんにも通じていますか? そうですね。子どもはやっぱり、気持ちいいことにはすごく敏感だから、たとえば木のものに触って“あったかい”って言ったりするんですよね。親戚の家で床が無垢であまり塗装をかけていないところがあるんですけど、そこは“柔らかくて温かい”って言いますから。

──彼のなかにも、自然に対する“スイッチ”は養われてるみたいですね。 もともと、子どもはそういうものを持っていて、でも小さい枠に入れてしまうと発揮しなくなるのか、あるいは別の発揮の仕方をするようになるのか。わたしも、今の彼と同じ8歳のときに「北の国から」で北海道に行ったんですけど、そのときにはすべてが遊び道具でしたからね(笑)。だから、解き放てば子どもは自然とスイッチが入るんじゃないですか。たいていは、小さくしちゃったり、あるいは目隠ししちゃってる状態なんだと思うんですよね。

──中嶋さんは上手く目隠しを外してもらって、今に至ってるわけですね。 そうですね。ちょっとわくが外れちゃってる感じですけど(笑)。“あれもこれも遊べるし、こんなに楽しい!”っていうスイッチが一度入っちゃえば、仮にフィールドが小さくなってもそういうものを探し出す力はもう持ってますから。

──やっぱりこちら側にそういう“スイッチ”があれば、木の魅力みたいなものは都会でも十分に味わえるものなんですね? 木べらといっしょで、付き合い始めればチャンネルが開くはずなんですよね。ただ経験してないだけだったり、そういうことで喜んだりしたことがないだけで。だから、ちょっとでも“面白いなあ”っていう経験値をあげていくと、どんどん近しくなったり、ささやかなものでもきれいだなあって思ったり。盆栽だろうがガーデニングだろうが、きちんと付き合わないと本当には付き合っていけないはずなんですよ。すごいノウハウが必要なんだと思うんです。ただ、お水をやって肥料をやってればいいのかと言えば、そうじゃないし。森も同じで、ある程度伐採していかないといい森にならなかったりもするじゃないですか。そうやって付き合っていくことが大事なんだろうし、付き合い始めればいろんなチャンネルが増えていって、いろんな興味がわいてきて、いろんなものと仲良くなれるんだろうなと思ってるんです。
(後編を読む)

中嶋朋子

東京都生まれ。81年フジテレビ「北の国から」に蛍役で出演、鮮烈な印象を残す。以降スペシャル版を重ね、22年の永きにわたり蛍役をつとめ、実力派としての地位を確立。
女優業のほか、トークショー、執筆等にも独自の感性を発揮、新たに注目されている。
現在、東京エフエム「ふんわりの時間」(毎週日曜AM9:00~)でパーソナリティーを務める。2007年4月に舞台「CLEANSKINS」(新国立劇場)に出演。