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武田双雲 インタビュー

武田双雲インタビュー後編 「木がなけりゃどうすんだ日本!って思いますよね(笑)」

武田さんは現在、新居を建築中だ。その新居は、当然のように湘南の教室の建物のイメージを引き継いで、木の魅力にあふれた家になると言う。後編では、その新居のこと、そして湘南の日本家屋に住んだことからも広がっている環境活動への意識などについて聞いた。

──現在建築中の新居はどんな感じの家になるんですか? 機能性というか、人が心地よいということを最優先に考えてるんですけど。だから、見ても何もインパクトはないんだけれども。中に入ると、人がなんとなく温かくなる、心が開けるような空間にしてください、っていうことばっかりお願いしてます。

──やはりこの家の延長線上のイメージってことですね? そうですね。この家からは離れられなかったです。新しく建てたからって勝てないのはわかってるんだけど(笑)。年季が違うし、それにここの庭にある木を移して植えたからって良くなるわけじゃないですしね。この庭は、これで調和してるんですもんね。すごく日本的で、ひとつひとつが突出してないっていうか、ひとつひとつが主役にならないんです。それぞれが譲り合うような環になってて、でも見る位置によってみんな主役になれるんですよ。で、全体としてひとつっていう。そういうこともやっぱりここに住まないと気づかなかったことですけど。

──書道教室もそこで開かれるんですよね? そうですね。1階が教室で、2階が住まいです。

──そこも木を使っている? はい、床は杉の板を敷いて、構造にも国産材を使って。

──たとえば床をフローリングにするようなことは考えなかったですか? まったく考えなかったですね。どうしてだろう?言われて初めて気がつきました(笑)。杉を使うと値段がバカ高くなるとかいうことだったら考えたかもしれないですけど…。でも、値段がそんなに違わないんだったら自然の木のほうがいいに決まってるって思ってましたね。あんまり深く考えてなかったけど、でもフローリングっていうのは僕のなかではあり得ないですよね。

──それはこの木造日本家屋で教室をやっていたから、そういうイメージになったんでしょうか? もちろん、そういう部分はあると思います。ここに住んで、自然ということを考え始めて、で、またそういうことを意識している人たちも出会うじゃないですか。そういう、この家を通して知り合った人の縁っていうのも大きかったと思いますね。だって、東京のオシャレなマンションに住んで活動してたら、いまお願いしている職人さんたちとは出会わなかったと思いますから。それが偶然なのか必然なのかはわからないですが、人の縁が重なっていって、今の家にたどり着いたんだと思うんです。その家が何十年か経つなかで、この家のようになってくれればいいなと思いますが。

──そういう人の出会いから環境運動にも積極的に参加されていますが、そういう武田さんからご覧になって、いまの日本の里山や森を取り巻く環境に対する人々の意識をどんなふうに感じていますか? 森を取り巻く環境問題のことでいちばん危ないと思うのは、みんなが本当の状況や情報を知らないおかげで加害者になり続けているっていうことですよね。悪気はないのに無知であるだけで加害者になり続けているっていう。ちょっと情報が行き渡りさえすれば大きく変わるってことだと僕は思っているんですけどね。あんまり心配はしていないです。産業革命からワーッと時代が流れて最近気づいたところですから。
もちろん、反省しなきゃいけないことはたくさんあるんですけど、僕は楽観主義で、これからどんどんいい方向へ向かっていくだろうと思っています。だから、気づいた人から順番に楽しそうに生きていくこと、それを楽しいと伝えること、でもそれを押し付けないこと。押し付けなくても、みんな楽しいところに集まってきますから(笑)。それに、人間のエゴというか自己中心的な考え方が逆にいい方向にはたらくと思うんです。だって、自分たちを守るためには地球を守らなきゃいけないってことをみんな思い始めてると思うから、”オレが、オレが”っていう気持ちをうまく使っていい方向に進んでいけばいいなと思いますね。

──そういう活動と書道家としての活動は、武田さんのなかではどんなふうにつながっているんですか? 僕が書道家として何をやってるかというと、書を見た人が元気になるじゃないですか。で、豊かになったら、ゆとりができるじゃないですか。ゆとりができるということは思いやりができるということで、それが伝わっていって環境問題も改善されていくかなっていう。現代人ってゆとりがないじゃないですか。いろんな不安に苛まれてますけど、僕の書を見たときにゆとりができるっていうことが僕なりの環境運動だと思ってるんです。

──そうやって国内の木を守り育てることにも尽力されているわけですが、最後にこの家のこの味わいも生み出している「木材」というものに対して何か話すとしたら、どんなことを言いたいですか? いやあ、いろんなところでお世話になってて感謝の気持ちでいっぱいですっていう感じなんですけど。だから、木に向かってというよりは、木がなけりゃどうすんだ日本!って思いますよね(笑)

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武田双雲

昭和50年熊本生まれ。3歳から書を叩き込まれる。
母である武田双葉に師事。
2003年・上海美術館より「龍華翠褒賞」を授与。イタリアフィレンツェ「コスタンツァ・メディチ家芸術褒章」受章。
フジロック等のイベントにて、数多くのパフォーマンス書道&筆文字ワークショップを実践。様々なアーティストとのコラボレーションを実践。 吉永小百合主演映画「北の零年」、三島由紀夫原作映画「春の雪」の題字など数々の題字を手がける。
斬新な個展、作品で多くの人々を魅了する書の新しい領域を開拓し続ける。
・著書「「書」を書く愉しみ」(光文社新書)